前回、「分人」という言葉は「個人」という言葉よりも現実に合った言葉ではないかということを書きました。
分人というものが現実に合った言葉だと考えるなら、分人は人間が現実に持つ性質によって形作られているはずです。
その大きな要素として考えられそうなのが人間の持つ「習慣」という性質です
反復することでパターンが形成される
まず分人についての説明を引用しておきます
分人とは、対人関係ごとの様々な自分のことである。
分人は、相手との反復的なコミュニケーションを通じて、自分の中に形成されてゆく、パターンとしての人格である。必ずしも直接会う人だけでなく、ネットでのみ交流する人も含まれるし、小説や音楽といった芸術、自然の風景など、人間以外の対象や環境も分人化を促す要因となり得る。
「私とは何か-『個人』から『分人』へ-」から抜粋
習慣についての説明を引用します。
習慣とは、長い間それを繰り返し行うことで、あたかもそうすることがきまりのようになったことである。基本的には、行動、身体的な振る舞いを指しているが、広くは、ものの考え方など精神的・心理的なそれも含みうる。
どうでしょうか?習慣と分人が深くかかわっていそうです。
反復することで行動や思考にパターンが形成される「習慣」という性質が人間にあるからこそ分人が形成されるのだと考えられます。
さらに共通点を考えてみましょう。
分人と習慣の共通点
習慣について書いた「良い習慣、悪い習慣」という本があります。
習慣の特徴
- 習慣的な行動は意識しないで自然にできる
- 習慣的行動そのものは感情反応をほとんど引き起こさない
- 習慣はその周囲の状況に深く根ざしている
1の「意識しないで自然にできる」、3の「周囲の状況に根ざしている」という特徴は分人に関わってきそうです。2はあまり関わりはなさそうです。
1と3について、それぞれ考えてみます
意識しないで自然にできる
習慣は無意識のうちに行われることとが多いです。例えば意識しないでも歯磨きはできます。
分人もそうです。私たちは意識的に分人を切り替えているわけではありません
例えば職場から家に帰ったときに「さぁ家での自分になるぞ!」と思ってなるわけではありません。家に帰れば無意識に家での自分になっているはずです
習慣はその周囲の状況に深く根ざしている
習慣はその周囲の状況、環境に深く根差しています。
例えば引越しなどでがらりと環境が変わった時の方が新しい習慣を身につけやすいそうです。
それは古い習慣を思い出させる環境が少ないので、そのぶん新しい習慣が入り込む余地ができるためです。
分人にも同じことが言えます。高校デビューは高校に入学するという環境が一変するタイミングで新しい分人を生み出します。
対人関係ごとに様々な自分がいるということも、周囲の状況や環境に影響されるという習慣との共通点です。
終わりに
こうして見てみると、習慣という人間のもつ性質は分人を形作る大きな要素と考えられます。
分人に関わる人間の性質が分かれば、分人についてより深く理解できます。もし分人を理解し、うまく付き合うことができれば自分とよりうまく付き合うこともできると思うのです。